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住む人たちの思いを未来につなぐ仕事

土木設計の魅力の一つは、巨大な構造物をつくることができるということ。そして、もっと大きな醍醐味がある。
入社6年目のあるプロジェクトで、湊谷はそれを痛感した。


河川に関わる仕事をしたい

 幼い頃、近所に完成した斜張橋に「カッコいい!」と感動し、大きな構造物をつくりたいと思うようになった湊谷昌樹。中央コンサルタンツ入社後は、首都圏の護岸・橋梁・道路の設計などに携わってきた。入社5年目には念願の大型プロジェクト、甲府の大月バイパス(国道20号線)の設計を主担当として任されるまでに成長した。
だが、土木設計の醍醐味とは大きな構造物をつくることではない。
葛飾区の綾瀬川にかかる「水戸橋」は、長さ約33メートル。決して大きくはないが、江戸時代に水戸光圀が妖怪を退治したことから名付けられたという由緒があり、地元の人々から親しまれてきた橋だ。しかし橋桁が低いため、高潮時には橋の横のゲートを閉じないと川の水が住宅地にあふれ出す危険があった。この高潮対策事業に、企画段階から関わったのが湊谷だった。
「選択肢はいくつかありました。住宅へ影響を与えることを覚悟で従来の位置で橋桁を持ち上げ、スロープでつなぐプラン。橋の架橋位置を変えて、ルートを変更するプラン。他に、橋そのものをなくしてしまうというプランもありました」
最初に、湊谷は頻繁に地元の人々の話を聞いた。橋への思いを熱く語る住民に出会うたび、小さな橋が本当に多くの人から親しまれていることが伝わってきた。
「絶対に、地元の人たちのために最良の形で橋を残したいと思いました」
1年をかけてプランを検討し、従来の橋から数十メートル上流側に橋をつくり、堤防沿いに新しい道路を整備してスロープで結ぶという案が採用された。地元住民に計画を説明するのに図面だけでは分かりづらいと判断した湊谷は、立体模型を作成。説明会では立体模型の中に小型のCCDカメラを入れ、映像を示して「この場所から見ると、橋はこう見えます」と説明して好評を博した。
「地元の人たちがこのプランをとても喜んでくれたので、橋の袂にインフォメーションセンターをつくり、工事の計画や進捗状況を逐次お知らせすることにしました。私が作った立体模型も、ここで展示してもらうことになりました」


自分の思いが景観になる

 だが詳細設計の段階に入ると、プロジェクトは大きな課題に直面した。新しい橋につながる堤防沿いのスロープには、大量の盛土が必要になる。しかし綾瀬川の東側に首都高速道路が通っているため、盛土をすれば土の重量によって高速道路を支える構造物に何らかの影響が出ないとも限らない。
「解決策としては、軽量盛土工法という方法があります……」
軽量盛土工法とは、盛土の代わりに軽くて耐水性に優れた大型の発泡スチロールブロックを使用する方法。このプロジェクトに最適の工法だが、問題は、圧倒的にコストが高いことだった。しかし地元の人たちの期待を考えると諦めるわけにはいかない。
「発注先の事務所の工事で使われた発泡スチロールブロックが保管してあることが分かりました」
湊谷はその保管してある発泡スチロールブロックを活用することを提案し、最大のネックだった価格の問題を解決した。
そして、いよいよ施工が始まる。しかし、ここで設計者としての湊谷の仕事が終わるのではない。施工開始後に予想外の事態に遭遇することも多く、そのたびに湊谷は現場に走った。
「施工が始まると過去の資料や図面に載っていない予期せぬ構造物等が出てくることも多く、そのたびに図面と工事の段取りを変更しなくてはなりませんでした」
問題はまだある。地質調査で発見できなかった、想定外の地下水が生じ、発泡スチロールブロックを設置する箇所が浸水した。しかし、原因を調査したが、明確な理由が分からなかった。
「検討の結果、将来性を見据えコストが高くなることを覚悟で浮力対策ブロックを使うという選択をしました」


思いを形にする勉強

 計画段階から4年を経て、新しい「水戸橋」が完成した。湊谷は橋の歩道部分に、川に向かって張り出す2箇所のテラスを設けた。
「ただ通り過ぎるだけの橋ではなく、橋を渡る人たちがテラスで立ち止まり、高くなった橋桁からの景色を楽しんでほしかったから」
立ち上げからプロジェクトを見守ってきた湊谷にとって、無事の工事完了はとても嬉しかった。しかし、それと同じくらい嬉しい出来事があった。
「地元の人たちが、完成を祝って開通式を開いてくれました。しかも近くの小学校の子どもたちが、この日のために練習してきたパレードを披露してくれたんです」
ここに完成した小さな橋と、この橋の完成を喜んだ日の思い出は、これからも地域の人たちの心に残り、ずっと語り継がれていくのだ。
土木設計とは、構造物をつくる仕事だ。しかし、基準どおりの寸法・強度の物をつくればいいという仕事ではない。橋でも道路でも、その場所には長い歴史があり、そこに住んでいた人たちの思いがある。もちろん、今、住んでいる人たちの思いもある。それらを無視して物づくりはできない。
「私たちの仕事は、そこに暮らす人たちの背景を理解して、最良の形で未来につなぐこと。その意味で、とても大きな仕事なんです」
入社した頃は、大きな道路や橋などをつくる技術者に憧れていた。東京オリンピックが決定してから首都圏の公共工事が増え、また彼自身も技術士の資格を取得したこともあり、今まで以上に大型プロジェクトを任されるようになった。しかしどんな大型プロジェクトでも、「住む人のための仕事」という信念を彼が忘れることはない。
今の目標は、大きな物をつくることではない。
「自分自身が器の大きな技術者になることです」


<プロフィール>

湊谷昌樹
2002年入社
東京支店 設計2部課長
技術士:総合技術監理部門(道路)
    建設部門(道路)
北海道・旭川生まれ。自然に囲まれて過ごしたせいか、今も休日はゴルフコースを回るのが大の楽しみ。しかし、ついつい「このコースを設計した人の意図は……」などと考えてしまうこともあるという。今後も、より器の大きな「道づくり」の技術者への道を歩み続ける。



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